アカボヤを用いた新規の構造解析の論文が受理されました

 今週から後期の授業がはじまりました。大学内にまた賑やかさや、ランチストリート(私はこれが大事です!)が戻ってきたそんな9月の最終週。情報生物学研究室でもとてもおめでたいことがありました。

 

我々の研究室では、糖や脂質に関連する代謝および生命の初期発生に着目して研究を行っております。今回、糖と脂質が結合した糖脂質について尾索類のアカボヤを用いた新規の構造解析の論文が受理されました。以下が、その大まかな内容です。

 

小樽の商店より購入したアカボヤ(Halocynthia aurantium)(図1)50個体を有機溶媒抽出にかけて脂質を抽出し、レシチンのような不要な脂質を分解除去し、いくつかのカラムクロマトグラフィーを組み合わせてセラミド型の脂質を分画しました。分画したセラミド型脂質に対して、質量分析機、ガスクロ分析、NMR分析などを駆使してその化学構造を決定し、今回、糖鎖末端にラムノースを有するグルクロン酸含有酸性糖脂質構造を新規構造(UGL-2)として発見しました(図2)。この研究を日本油化学会の国際誌であるJournal of oleo scienceに投稿し、このたび受理の知らせを受けました(図3)。

発見したUGL-2は、グルクロン酸が糖鎖の根元に存在し、そこに別の糖が伸長する構造であり、これまでに報告されている糖鎖末端にグルクロン酸が存在する糖脂質とは異なる特徴と言えるものです。また、UGL-2は糖鎖末端にラムノース(6-デオキシ-L-マンノース)が存在していました。ラムノースは植物の細胞壁の多糖および細菌の菌体外多糖として有名ですが、そのような単糖がアカボヤの酸性糖脂質を構成する糖として見られたことは興味深い知見です。アカボヤは尾索類といって発生の初期段階にのみ脊椎の前駆体である脊索を有する生物であり、その仲間にゲノム解読済みのカタユウレイボヤ(Ciona intestinalis)が存在します。ホヤ類は動物で唯一セルロース合成を行いますが、比較ゲノム解析の結果、その遺伝子は水平伝播で獲得したことが示されています。今回のアカボヤUGL-2ではラムノース転移酵素の働きで糖鎖構造が生成されていると考えられますが、そのラムノースの転移酵素も同様にして細菌から水平伝播した可能性が考えられました。

二枚貝から発見されたグルクロン酸含有糖脂質は貝の精子表面に存在することが示されており、ウニの精子の酸性糖脂質(ガングリオシド)は卵との結合に関与することが示されています。マウスの精子の酸性糖脂質(硫酸基含有グリセロ型脂質)は卵の透明帯の糖タンパク質に結合することが示されています。これらのことから、UGL-2も受精に関与することが考えられました。

セラミドにグルクロン酸が結合したセラミドグルクロニドは、マウスの結腸癌を抑制すること、経口投与するとその75%が結腸で分解されることが示されています。今回のUGL-2もグルクロン酸を持ったセラミド型脂質であることから、結腸癌に関する研究への応用が期待されます。

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図1.解析対象として用いたアカボヤ(Halocynthia aurantium

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図2.アカボヤから発見した新規の酸性糖脂質UGL-2の構造

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図3.論文がJournal of oleo sicence誌に受理されたことをしめす知らせ

 

年度末に向けて、情報生物学研究室がいいスタートを切れてうれしいです!!