はじめまして

 縁あって少し前から情報生物学研究室でお世話になりはじめた私。この年になって、知らない世界を知ることはとても有意義なことです。少しわかりにくい世界かもしれませんが、とても神秘的で壮大な世界です。

 

 少しでも多くの人にこの分野に興味を持っていただき、楽しい!と思っていただければ幸いです。この分野が社会にどのように貢献しているかなど、いろいろな角度から情報生物学を知ってもらえたらと思います。

 

今日は小島先生にクロアチアの学会の内容について、わかりすく解説していただきました。

私たちは生命情報学科に所属していて、生き物の仕組みを情報科学の力を使って解き明かす学問(バイオインフォマティクス)の分野で研究を行っています。

 

このたび、私たちはバイオインフォマティクスに関する新しい論文を発表しました。

その論文は糖鎖の進化に関する内容で、糖鎖の合成を行う酵素が存在する細胞小器官(ゴルジ体と小胞体)の進化にも迫る内容となっています。

 

以下を読めば、「生き物の仕組みを情報科学の力を使って解き明かすことができる」ということが理解できると思います。

 

では、その内容を簡単に説明しますね。

 

生命体の体の中にはひも状の高分子がいくつかありますね。

 

有名なのは遺伝の情報を含んでいるDNAと、DNAの情報が実際に働く形になったタンパク質ですね。

 

でもまだあるんです。

 

健康食品で有名なものが。聞いたことありますよね、「ヒアルロン酸」とか「グルコサミン」とか「(グルコシル)セラミド」。これらに共通するのは"糖"を含む分子であること。糖の高分子を糖鎖って言います。糖鎖は細胞ごとに異なることから、「細胞の顔」と呼ばれています。身近なところで言うと、日本人の会話でよく聞く、血液型。この型の認識は糖一つの違いで生まれています。他には、粘膜で病原体を捕まえる仕組みも糖鎖の働きですし、脳神経系にはセラミドとくっついた糖鎖がたくさん含まれているのです。

 

ところで、糖鎖は動物の間で共通していることもあれば、動物ごとに違うこともあるのです。じゃ、「糖鎖を調べれば動物の進化を解き明かせるかも知れない」ということで、糖鎖を形作る酵素を"情報科学"の力を使って調べてみました。

 

もともと、高分子になっている糖鎖のでき方は、根元の物質(タンパク質や脂質)に一番目の酵素の働きで一番目の糖が付けられることで始まります。その後、二番目の酵素の働きで二番目の糖、三番目の酵素で三番目の糖、というように一つ一つ酵素が別々に働いて糖鎖を作っています。

調べたところ、糖鎖の根元の形成に関わる酵素ほど生物の進化においてずいぶん昔に出現した酵素で、糖鎖の先端の形成に関わる酵素は進化においてごく最近になって出現した酵素である、という壮大な新事実が明らかとなりました。これまで糖鎖の専門的な教科書ではなんとなくぼやかして書かれていたことが、バッチリ証明できたのです。

 

さらに、高校の生物で細胞を習う時に、いろんな細胞内小器官が出てきますが、糖鎖の合成に関わっている小胞体とゴルジ体についても新事実が分かったのです。どちらの小器官にも糖鎖の合成に関わる酵素があるのですが、小胞体にある酵素ほど進化的に古くて、ゴルジ体にある酵素ほど進化的に新しいということが。これも教科書に書き足すくらいの重要な話なんです。

 

そんな訳で、この内容を先日クロアチアで開かれた糖鎖に関する国際的な学会(Glyco23)で発表し、生物物理学会の学会誌上で発表しました。論文発表までにレビューワーと呼ばれる専門家に論文の内容の良し悪しを判断してもらう査読という段階を経るのですが、その過程でレビューワーから“This is a superb piece of work and will undoubtedly be highly cited in the literature for decades to come.”(これは素晴らしい論文であり、今後数十年に渡って間違いなく文献に高度に引用されるでしょう)という大変高い評価をいただくことが出来ました。

 

詳しい内容に興味のある方は以下まで。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophysico/12/0/12_57/_pdf

 

---(論文の詳細情報)---

BIOPHYSICS, Vol.12, pp. 57-68

Title: Investigation of glycan evolution based on a comprehensive analysis of glycosyltransferases using phylogenetic profiling

Authors: Takayoshi Tomono, Hisao Kojima, Satoshi Fukuchi, Yukako Tohsato and Masahiro Ito

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